コミュニティ金融と地域通貨
2007.10.17 Wednesday 22:03
『コミュニティ金融と地域通貨-我が国の地域の状況とオーストラリアにおける地域再生の事例』を読んだのでメモ.
概略
第一章: 中小企業の疲弊の原因として経済のグローバル化に伴う大手企業の海外移転で仕事がなくなったことが挙げられる.しかし,戦後政策的に資金が大企業へ流れて中小企業が融資を受けにくい状態が続いたために下請けにならざるを得なかったという構造的な原因がある.
しかし下請けでは研究開発費の捻出が難しいため,グローバル化の中で差別化を図れなくなっている.
第二章: オーストラリアは1900年以降に育ちつつあった製造業がグローバル化の中でつぶれ,原材料である石炭・鉄鉱石が日本に向かうようになる.バブル景気の日本がオーストラリアのリゾート開発を進めた結果,オーストラリアには第一次産業と第三次産業のみとなった.そして製造業からサービス業への転換の中で雇用が不安定化した.
さて,プリスベンの北にあるマレニーという町.かつて(1950年頃まで)は酪農で栄えたが,1973年以降ECCに加盟したイギリス向け輸出が失われたこと,海外資本の進出で酪農業が淘汰され,さらに地理的条件からリゾート開発の対象にもならなかった.
ところが1980年に都会とは違ったライフスタイルを求めてマレニーに移住する人が増えてきた.そして「マレニー・クレジットユニオン(Maleny & District Community Credit Union Ltd.)」と地域通貨制度LETS(Local Energy Transfer System) によって町を再生させた.
前者は地域内で資金を回すための銀行で,ビジネス立ち上げに当たって大手銀行が融資を拒否したために設立したものである.融資は無担保で行われるが,ビジネスアイディアを吟味し,軌道に乗るまでは事業をサポートする方法によって85%と高い成功率をあげている.
後者はマレニーのみで通用する通貨.小切手形式で振り出しに制限はない.通常の通貨の枠組みに入れない人を救済する役割を持つ.
第三章: オーストラリアではバブル崩壊に伴い銀行の撤退が起こった.すでに地域に密着した銀行が大銀行により淘汰された後だったので,金融サービスを受けられない地域が出てきた.コミュニティバンクの設立が以前より難しくなっている中,ベンディゴバンクのように地域経済のための支店を引き受ける銀行が出てきている.
第四章: 下請けからの自立の例として知的障害者授産施設「蔵王すずしろ」の例を取り上げている.知的障害者に支払われる平均賃金が1ヶ月1万円と低いのは事業の収益性そのものに問題があると考え,数量が少なくとも売り上げの上がるものの生産を検討した結果,他よりも濃度の高い豆腐作りを選択した.さらに雪花菜を使ったパンやドーナツは他に比べて高価であっても需要が伸びている.
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