「A Thousand Barrels a second」
2007.11.01 Thursday 23:49
「石油 最後の1バレル」を読んだ.原題の「A Thousand Barrels a second」は1日の石油消費が8600万バレルを超える,つまり1秒間に1000バレルの石油が消費されているという現状を意味している.
この本はまず過去にあったエネルギー枯渇問題を振り返り,そこから得られる教訓と石油を囲む現状(2005年)のデータから,主にアメリカ国民を対象としてエネルギー消費増大への懸念を投げかけている.また,経済的な面から今後エネルギーを取り巻く環境ががどのようになるかを予測している.
エジソンの例を引き合いに出して,エネルギーの切り替えはすでに作り上げられたサプライチェーンの変更を伴うかどうかが重要なポイントになること,最初に手がけたものが必ずしもうまくやるとは限らないことなどエネルギービジネスの展開についてもふれている.
「安い」原油は無くなる.救世主は来ない.しかし我々は原油ではなく「石油製品」を使っている.その違いを認識すればまだ代替案はある.ただ,現状に不満を言うばかりでなく新たなサプライチェーンに向けて動き出すときがきている.
この本はまず過去にあったエネルギー枯渇問題を振り返り,そこから得られる教訓と石油を囲む現状(2005年)のデータから,主にアメリカ国民を対象としてエネルギー消費増大への懸念を投げかけている.また,経済的な面から今後エネルギーを取り巻く環境ががどのようになるかを予測している.
エジソンの例を引き合いに出して,エネルギーの切り替えはすでに作り上げられたサプライチェーンの変更を伴うかどうかが重要なポイントになること,最初に手がけたものが必ずしもうまくやるとは限らないことなどエネルギービジネスの展開についてもふれている.
「安い」原油は無くなる.救世主は来ない.しかし我々は原油ではなく「石油製品」を使っている.その違いを認識すればまだ代替案はある.ただ,現状に不満を言うばかりでなく新たなサプライチェーンに向けて動き出すときがきている.
以下自分用メモ
かつて鯨油が灯火用燃料として使われたとき,マッコウクジラを取り尽くした.鯨の数はどんどん減少し,航海はどんどん長く困難になった.
現在の油田探しはまさにこの末期の状態にある.
原油はすべて同じではない.原油の価格といわれているのは「軽質スイート原油」の価格で,実際にはそれよりも質が低く不純物が多い重いものもある.
原油の生産力の余力は3%ほどしかない.誰かがため込もうとするととたんに価格が上昇する.さらに,石油の生産力は年に5%で低下しており,新たな油田が無くては現在の供給力を維持できない.
アメリカ: 電力の原油への依存はわずか.電力発電用燃料の多くは石炭.消費の多くを占めるのは自動車用ガソリン.石油ショックで調整があったがまた増加傾向にある.原因として大型のSUVへの買い換え需要,通勤の長距離化がある.
日本: 石油ショック以来石油の消費は横ばい.LNG液化タンカーの建造に力を入れている.
イギリス: 石油ショック以来石油に税金をかけたために再調整が起き,イギリスの石油消費量は1973年を下回る水準.天然ガス利用率が上昇している.
韓国: 1988年から1997年まで年率7.7%の経済成長が続き,それと同時にエネルギー消費も伸びていたが,1997年のアジア通貨危機によるウォンの下落で輸入エネルギー価格が相対的に二倍に上昇した.
中国: 石油消費も伸びているが,エネルギーの大部分は石炭.天然ガス・原子力はほとんど使われていない.
1970年代の石油ショック以前はGDPののびに比例して原油消費が伸びていたが,1970年代の石油価格高騰以降はその伸びが鈍化している.これはエネルギー効率の高い機器,燃費のよい車,液化天然ガスの利用拡大などの理由であり,これを本書では「再調整」と呼んでいる.
現在使われている石油,特にガソリンが他の燃料に置き換わるのは簡単ではない.それは石油を前提としたサプライチェーンができあがっているためである.サプライチェーンの再構築が必要だったりユーザのライフスタイルに変革を迫られるものは短期間での普及は難しい.エジソンが電球を発明したとき,街路の照明にはガス灯が使われていた.エジソンが成功したのはこのガス管に電線を引き,ガス灯のソケットに電球を入れる以外はで既存のインフラを再利用できるように設計したためである.
既存の石油サプライチェーンでは最終消費までにかなりのエネルギーロスがある.それを改善する余地がまずあるだろう.
ところで,ここで1つ注意すべきポイントがある.それは消費者が必要としているのは「石油製品」であって「原油」そのものではないということである.実はこれまでも石炭から石油を作る技術が研究されていた.天然ガスを産するがパイプラインを引くには離れすぎているカタールではかつてから天然ガスからディーゼルを作って輸出していた.
これらの石油以外から石油製品を作る試みは,サウジアラビアなどで産出される良質の石油が安いうちはコストに見合わないと考えられてきた.しかし,石油価格が上昇することでそのような技術が「割に合う」ものとなり,再び脚光を浴びるだろう.カナダのアルバータ州に多量に埋蔵されている「瀝青」(オイルサンド)も注目されている.
あるエネルギーが手に入らなくなり,方向転換を迫られるポイント(ブレークポイント)に達して再調整が起こるまでには以下の4つの段階をたどるだろう.
第一段階:不平を言いながらお金を払う
第二段階:節約し,効率化を図る
第三段階:代替エネルギーを使い始める
第四段階:社会やビジネス,ライフスタイルを変える.
基本的に人々は市場原理で動いており,多少ガソリンの価格が高くなっても車を買い換える費用以上に高くなければ今すぐ買い換えることはしない.
逆に代替エネルギーよりも価格が高くなってしまうと,その資源が使い切られる前に経済的理由からエネルギーの転換が起こる.
本書ではエジソンが電球を発明したときの状況について,当時エジソンと同じように電球の開発を行っていたウィリアム・ソーヤーと比較して考察している.電球を手がけたのはエジソンが最初ではなく,電球に関するいくつもの特許がすでに取得済みとなっていた.エジソンの成功は技術力というよりもむしろメディアのコントロールによるものであった.
鯨油と原油
かつて鯨油が灯火用燃料として使われたとき,マッコウクジラを取り尽くした.鯨の数はどんどん減少し,航海はどんどん長く困難になった.
現在の油田探しはまさにこの末期の状態にある.
原油
原油はすべて同じではない.原油の価格といわれているのは「軽質スイート原油」の価格で,実際にはそれよりも質が低く不純物が多い重いものもある.
原油の生産力の余力は3%ほどしかない.誰かがため込もうとするととたんに価格が上昇する.さらに,石油の生産力は年に5%で低下しており,新たな油田が無くては現在の供給力を維持できない.
エネルギー構成
アメリカ: 電力の原油への依存はわずか.電力発電用燃料の多くは石炭.消費の多くを占めるのは自動車用ガソリン.石油ショックで調整があったがまた増加傾向にある.原因として大型のSUVへの買い換え需要,通勤の長距離化がある.
日本: 石油ショック以来石油の消費は横ばい.LNG液化タンカーの建造に力を入れている.
イギリス: 石油ショック以来石油に税金をかけたために再調整が起き,イギリスの石油消費量は1973年を下回る水準.天然ガス利用率が上昇している.
韓国: 1988年から1997年まで年率7.7%の経済成長が続き,それと同時にエネルギー消費も伸びていたが,1997年のアジア通貨危機によるウォンの下落で輸入エネルギー価格が相対的に二倍に上昇した.
中国: 石油消費も伸びているが,エネルギーの大部分は石炭.天然ガス・原子力はほとんど使われていない.
今後の展望
1970年代の石油ショック以前はGDPののびに比例して原油消費が伸びていたが,1970年代の石油価格高騰以降はその伸びが鈍化している.これはエネルギー効率の高い機器,燃費のよい車,液化天然ガスの利用拡大などの理由であり,これを本書では「再調整」と呼んでいる.
現在使われている石油,特にガソリンが他の燃料に置き換わるのは簡単ではない.それは石油を前提としたサプライチェーンができあがっているためである.サプライチェーンの再構築が必要だったりユーザのライフスタイルに変革を迫られるものは短期間での普及は難しい.エジソンが電球を発明したとき,街路の照明にはガス灯が使われていた.エジソンが成功したのはこのガス管に電線を引き,ガス灯のソケットに電球を入れる以外はで既存のインフラを再利用できるように設計したためである.
既存の石油サプライチェーンでは最終消費までにかなりのエネルギーロスがある.それを改善する余地がまずあるだろう.
ところで,ここで1つ注意すべきポイントがある.それは消費者が必要としているのは「石油製品」であって「原油」そのものではないということである.実はこれまでも石炭から石油を作る技術が研究されていた.天然ガスを産するがパイプラインを引くには離れすぎているカタールではかつてから天然ガスからディーゼルを作って輸出していた.
これらの石油以外から石油製品を作る試みは,サウジアラビアなどで産出される良質の石油が安いうちはコストに見合わないと考えられてきた.しかし,石油価格が上昇することでそのような技術が「割に合う」ものとなり,再び脚光を浴びるだろう.カナダのアルバータ州に多量に埋蔵されている「瀝青」(オイルサンド)も注目されている.
ブレークポイントと再調整への道のり
あるエネルギーが手に入らなくなり,方向転換を迫られるポイント(ブレークポイント)に達して再調整が起こるまでには以下の4つの段階をたどるだろう.
第一段階:不平を言いながらお金を払う
第二段階:節約し,効率化を図る
第三段階:代替エネルギーを使い始める
第四段階:社会やビジネス,ライフスタイルを変える.
基本的に人々は市場原理で動いており,多少ガソリンの価格が高くなっても車を買い換える費用以上に高くなければ今すぐ買い換えることはしない.
逆に代替エネルギーよりも価格が高くなってしまうと,その資源が使い切られる前に経済的理由からエネルギーの転換が起こる.
エジソンのこと
本書ではエジソンが電球を発明したときの状況について,当時エジソンと同じように電球の開発を行っていたウィリアム・ソーヤーと比較して考察している.電球を手がけたのはエジソンが最初ではなく,電球に関するいくつもの特許がすでに取得済みとなっていた.エジソンの成功は技術力というよりもむしろメディアのコントロールによるものであった.
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